苗字の日とは
9月19日は「苗字の日」とされています。これは1870年(明治3年)のこの日に、太政官布告によって「平民苗字許可令」が出され、庶民も苗字を公式に名乗ることが許されたことに由来します。それまで苗字は主に武士や公家など特権階級が用いるもので、一般庶民は日常生活で苗字を公的に使用することはできませんでした。苗字の解禁は、近代国家へと歩み出す日本において、人々の身分や暮らしに大きな変化をもたらした出来事でした。
苗字を持つことの意味
苗字は単なる呼称ではなく、血縁や地縁、職業や土地とのつながりを示す文化的な記号でもあります。「佐藤」「鈴木」のように全国に広がった姓もあれば、特定の地域に根ざした珍しい姓もあり、その由来をたどることで土地の歴史や生活の痕跡が浮かび上がります。明治以前、庶民は日常的には通称で呼ばれ、村の中で識別できれば十分でした。そこに国家が「すべての国民に苗字を与える」と方針を転じたことは、社会を統一的に管理し、戸籍制度を整えるための大きな一歩だったのです。
庶民の思い──喜びか、それとも戸惑いか
では、苗字を名乗ることを許された庶民はどう感じたのでしょうか。長く苗字を持てなかった人々にとって、苗字を持つことは誇りや社会的承認を得るような喜びであった一方、戸惑いや面倒も少なくなかったと考えられます。急に「今日から苗字をつけなさい」と言われても、何を名乗ればよいのか困った家庭も多かったと伝わります。実際に、地名や職業、自然物からとっさに苗字を作った例も多く残されています。苗字は誇らしいものであると同時に、生活の実務に根ざした選択でもあったのです。
苗字の日に考えること
苗字の日は、名字の歴史を振り返るとともに、私たちが名前を通じて社会とどうつながってきたかを考える日でもあります。苗字は過去からの文化の継承であり、同時に私たち自身のアイデンティティを形づくるものです。この日をきっかけに、自分の苗字の由来を調べてみたり、家族と先祖の歴史について語り合ってみるのも良いでしょう。そこには、明治の人々が近代国家に歩み出すなかで感じた誇りや戸惑いが、静かに息づいているのかもしれません。

